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横浜家庭裁判所川崎支部 平成元年(少)1293号 決定

少年 N・T(昭50.4.10生)

主文

少年を教護院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、A(当13歳)・B(同前)・C(当12歳)と共謀のうえ、平成元年5月23日午後11時頃、川崎市高津区○○××番地×所在○○駐輪場において、D所有の第1種原動機付自転車1台(高津区く××号・時価2万円相当)を窃取したものである。

(適用法条)

刑法60条・235条

(処遇の理由)

1  少年は、5歳時に両親が離婚したことから、1歳年下の弟(本件の共犯者)と4歳年下の妹と共に、母の親権に服することになったが、母が離婚後も夜の水商売に出るため、母親の暖かい愛情を殆ど注がれることなく、そして凡そ日常生活の基本的躾を施されることなく生育して来た。

2  幼い頃から不幸な家庭環境で生育したこともあって、少年は、自己受容も出来ずに自己を過小評価しがちで、物事に対して意欲的に取り組む姿勢が乏しく、また、周囲に対する被害者意識も強く、小学校低学年の頃から所謂「苛められっ子」的存在に陥り、学校生活から早期に落ち零れてしまった(なお、少年のI・Qは、現在109であり、知的水準には何ら問題はない)。

3  このようなことから、少年は、少年と同様に学校生活から落ち零れた地域の年長者達との交遊に帰属意識を持つようになり、小学校5年生の頃から、これらの者達や実弟のCと共に頻繁に万引等の触法行為を繰り返すようになり、しかも、スナックで働く母が夜間留守にするため、少年の家は素行不良者の溜り場と化してしまっていた。

4  このため、少年は、警察の補導はもとより、昭和61年10月からは児童福祉司の手厚い在宅指導を受けるようになり、更には、昭和63年1月に児童相談所に一時保護されたりしたものの、一向にその素行は改善されず、同年9月に転校した○○中学校ではすぐに不登校状態に陥ったばかりか、平成元年4月以降は、シンナー吸入・恐喝・窃盗等の非行を頻繁に繰り返している(本件非行は、そのうちの1つである)。

5  かように、少年は、児童福祉司の指導にも従わずに、地域の素行不良者や実弟と頻繁に非行を繰り返すなどして、誠にその行状は芳しくなく、基本的な躾も身に付いていないうえ、精神面での幼稚さが目立つのである。

6  また、保護者である実母は、非行を頻繁に繰り返す少年に対する適切な指導のためには教護院入所が不可欠である旨勧める川崎市中央児童相談所の指導には一切耳を傾けようとはしないばかりか、少年に対する監護権を適切に行使しようとする意欲が皆無に等しく、また、少年の非行文化への親和・傾斜に母の生活態度・少年への対応がどれ程大きく影響しているかについて真剣に考え、母自身その意識を変革しようといった態度も全く見られない有様で、結局、母には少年に対する監護権の適切な行使は望めないというのが現状である。

7  このような芳しくない家庭環境で生育した少年の従前の性行上の問題点及び保護環境の現状に照せば、現段階で少年に対して在宅保護を施してみても、再非行からの少年の保護と健全育成を図ることは極めて困難であると言わざるを得ない。

そして、少年の性行上の問題点がその家庭的負因に大きく影響されていることを併せ鑑みると、少年を教護院に送致することが現段階における最善の方策であると思料する。

8  よって、担当調査官○○及び鑑別担当者○○の各意見を参酌のうえ、少年法24条1項2号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 加登屋健治)

〔編注〕抗告審(東京高 平2(く)70号 平2.3.30 抗告棄却決定)

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